ふしぎ工房症候群 episode8「オルゴール」福山潤 Chapter1 prologue
日常で起こる些細で不可思議な出来事、それが人の思考と行動に影響を与えていく過程と結末を知りたいとは思いませんか。この物語はあなた自身の好奇心と願望に基づいて構成されています。ともすれば見落としてしまいがちな、いつもの風景のなかにあなたが不思議工房を見つけることができるようにお手伝いしましょう
Chapter2 出会い オルゴールの音が流れる、一つ一つの音がゆっくりと僕の中に入ってきて、痛んだ心優しく包んでくれる。大切な、大切な思い出。もうあれから何年経つのだろうか、まだ幼い少女は、はにかんだ顔で僕にオルゴールを手渡すと、目の前から走り去っていた。僕はその背中をずっと見送っていた。彼女はどこか遠くの町に引越していたと聞いた、ひと夏の淡い恋だった。
小学五年生だった僕は夏休みに母の自家へと遊びに行った。山々に囲まれ、空気の澄んだ田舎町、僕はそこで一ヶ月を過ごした。その時、少女に出会った。少女が木々の間から突然現れた、風に飛ばされた帽子を追って飛び出してきたのだが、白いワンピースに身を包んだ姿は、日差しを反射してきらきらと輝き、その瞬間に妖精が現れたと錯覚するほどにまぶしかった。帽子を拾ってあげた僕に少女はにっこりと会釈して、礼を言うと、そのまま、風のように去っていた。風に運ばれた、そんな表現がぴったりくるような出来事だった。その後も少女は風とともにやってきて、風とともに去ってゆく、そんな印象だった。特に待ち合わせしたわけでもないのに、気づくと目の前に立っていて、僕に笑顔を向けていた。あるいは、偶然かもしれないが。
僕はいっぺんで彼女に夢中になってしまった。それからは、少女と過ごす時間が、僕の貴重なひと時となった。彼女はあんまり自分のことを話さなかったから、最初は秘密めいた存在に見えたが、それでも、すごしずつ僕になれてきた。僕と同じ年の少し増せた感じの女の子。夏休みに入ってこの町に越してきたから、まだ友達はいないという、僕が最初の友達というわけだ。少し嬉しくなった。虫を取ったり、水辺で遊んだり、時にはお弁当持参で山奥を探検したりと、僕たちの興味は尽きなかった。何より彼女と一緒にいることが楽しかった。木々のざわめき、湖のきらめき、それらに身を包まれて、まるで夢のような時が流れていく。一ヶ月はあっという間だった。僕は夏休みが終わっても時々はこの町に、少女に会いに来ようとひそかに誓った。しかし、その誓いはすぐにもたたれた、少女は夏の終わりとともにまたこの町を去るという。もう会えなくなる、ひどくがっかりしている僕に少女はこのオルゴールをくれた、彼女の宝物だと言っていた。僕の、夏が終わった。
Chapter3 事故
手元のオルゴールを見る、もう10年近く経ってだいぶ古びてきてはいるが、その音色は変わらない。実のところ、ずっとしまいこんでいて、しばらくは忘れていた時期がある。あの夏以来、すっかり普通の生活に戻って、少女との思い出は、だんだんと遠くなっていた。でも、ある出来事が僕にそれを思い起こさせた。1年前、バイクを運転中に、飛び出してきた子供を避け落として転倒した。体がふわっと宙の浮いた感覚の後は、何も覚えていない。目が覚めると、病院のベッドの上だった。特にひどい怪我をしたようには思えなかったが、しばらくして、事の重大さにようやく気づく、僕の両足は動かなかった、事故の後遺症だった。リハビリをすれば動くと励まされ、僕は退院後も頑張った。来る日も来る日も懸命に訓練を続けた。しかし、その成果は少しも現れないばかりか、この足はもう
動かなのではという不安だけはましてくる。つらいリハビリへの恐怖感も手伝って、いつしか希望を失い、家に閉じこもるようになった。外出しなければならない時は、電動の車椅子を使う。その扱いにも慣れて、自分で立って歩くことの必要性を薄らぎ、将来に対する不安は、諦めと変わっていた。休学中の大学も中退した。どうせ僕なんか、そう思えば楽になる自分がいる、人間なんて弱いものなんだ。そう考えれば、これ以上努力できない自分を慰められる。家にこもることで、自分を守ろうとした。健康だったはずの僕は、精神的病むことで、病気がちとなっり、病弱な体質へと変わりつつあった。家族に迷惑をかけていることは十分承知している、でも自分ではどうにもならなかった。完全に気力を失っていた。そんな毎日が続くと、思い出に浸ることに喜びを見出すようになった。まだ元気だったころの自分、立って歩き、思うままに行動していた自分、友達との会話、僕が歩けなくなってから姿を見せなくなったガールフレンドと楽しく過ごしたころ、思い出はどんどんと遡っていく、そしてあの夏に行き着いた。
Chapter4 後悔
オルゴールのことを思い出し、足を引きずって、部屋中を探し回った。それは、机の引き出しの奥にひっそりと、大事そうに布に包まれて眠っていた。蓋を開けると、当時は美しく甘く感じられた音色は物悲しげに流れた。私を忘れていたでしょう、ダメよ、しかっりと覚えててくれなくちゃ。オルゴールの音色は、そう言ってるように聞こえた。一気に夏の日の思い出が蘇る。山の木々、さざめく湖水、まぶしい日差し、肌をなでるそよ風、そして、少女の笑顔。あの少女ももう大人になっただろう、さぞかし美しい女性になったに違いない。あの時、僕はオルゴールをもらった後、ただ茫然と彼女を見送った。なぜ後を追わなかったのだろう、なぜ行く先を聞かなかったのだろう、後悔の念だけが浮かんでくる。後悔すればするほど、少女の姿が輝いてくる。思いをめぐらせばめぐらすほど、彼女の存在が僕の心を占めていく、ついいたたまれなくなって、オルゴールを引き出しに戻すが、翌日にはまた取り出して蓋を開けている自分がいる。夢の中にも、音色とともに少女が現れるようになった。夢の中の少女があの時の姿のままだった。風のように現れて、僕に微笑みかけてから、風のように去っていく。あの時と同じだ。「待って」呼びかける声は、彼女の背に届かない、あの時と同じように、僕は茫然と見送っているだけだ、少女の姿が小さくなっていく、必死になって叫ぶ、「待ってよ、僕をおいて行かないで。」決まってそこで目覚める。自分はなぜここにこうしているのだろう、そう思うと、涙がほほを伝う、それが日課となった。
Chapter5 決意
そして、一週間も経ったころ、ある決意をした、あの場所に行ってみようと。会えるわけもない、そんなことは百も承知だったが、とにかく、居ても立ってもいられなくなっていた。彼女に会いたいと思う気持ちが、僕を突き動かしたのである。最初は困惑した母だったが、それでも、僕が外へ出る気になったことを喜んでくれた。季節はちょうど夏、避暑も兼ねて、母が同行してくれることになった。久しぶりの町は、相変わらず穏やかな空気に包まれていた。祖父が駅まで出迎えてくれた。「久しぶりだな、元気にしてたか。」祖父は優しい、僕の体に気遣う素振りも見せず、普通に扱ってくれる、それが嬉しかった。母は曖昧な笑みを浮かべていた、最近の僕に、どう接していいか分からない自分を恥じているようにも思えた。ごめんね、母さん。心の中で母に詫びた、と同時に素直な感情を持てる自分に少し驚いた。やはりこの町の空気が気持ちを和ませてくれるせいかもしれない。母の実家に着くと、今度は祖母が笑顔で迎えてくれた。僕はなんだか全身から力がぬける
ような安心感に包まれ、その夜はぐっすり眠りにつくことが出来ました。翌日になって、一人で出かけようとすると、母が心配して引きとめた、無理もなかった。それまでの僕は家に閉じこもってばかりで、一人では外出する気にもなれなかった。その僕が、車椅子まで自力で張っていき、外に出て行こうとするのだから、母の驚きは一期は大きかった。しかし、母が止めようと一人で行かなければならない、しかも一刻も早くと気が急いてた。「ほっといてくれ。」つい語気を荒げてしまった。しまったと思った、気づいたら母がうつむいて涙を流していた。これでは今までの僕となんら変わらない、それでは何のためにここに来たのかと問われると、どうにも答えようがない、ばつが悪そうにしていると、祖父が助け舟を出してくれた。「まあ、いかせてやれ、一人で何かをしようという気になったんじゃないか、いいことだ。それに、この辺は都会と違って安全だ、な」「う、うん」祖父に適当な相槌を打つと、僕は車椅子を走らせた。恥ずかしさに顔から火が出そうだった、真っ赤になった顔を見られたくなくて、その場を逃げるようにして家を出た。ここにやってきたのは思い出に浸るため、思い出の中の少女の面影を追うためなんて、口が裂けても言えない。それでなくでも、普段からわがままを言って、母を困らせている。今回も単なる思いつきに同行させ、あげくに泣かせている自分が情けない。祖父の優しさが、自分の人間としての器の小ささを際立たせているようで、更に穴があったら入りたいくらいだった。それでも、しばらく散歩していると気分が落ち着いてきた。自然に囲まれたこの土地は、さすがに心を癒してくれる。気を取り直して、少女と初めて出会った場所に向かった。
Chapter6 思い出の場所
ここだ、木漏れ日が差し込む木々の間の小道をゆっくりと進んだ、真夏だと言うのに、風がひんやりとして気持ちいい。そういえば、あの日もこんな陽気だったと記憶している。彼女は突然僕の前に現れた、風とともに。ざっと、木の葉を揺らす音にはっとなった、あたりを見回してみる、特に変わった様子はない。「へん」と笑いを零してから、深くため息をついた。ありえないよな、少女が現れたと一瞬でも考えた自分がバカに思えてならなかった。当時彼女はたった一ヶ月この町に滞在しただけだ、自分と会っていた時期は人生の中でもほんのわずかな時期すぎないのだ、もう大人になった今、例え再会できたとしても、お互いを認識できる保証はどこにもない、そればかりか、彼女は僕のことをとっくに忘れている可能性だってある。オルゴールを見せて説明しても、幼い面影だけを追って生きている男のセンチメンタリズムを笑うかもしれない、増して、気持ち悪いといわれても仕方がない。それ以前に会うことは叶うはずもない夢なのだ、僕はがっくりと肩を落とすと、声を上げて笑った。「はははははは」ひとしきり笑った後で、自分を慰めてみた。いや、彼女に会いたかったわけじゃない、気晴らしに思い出の場所を訪れてみたかっただけなんだ。この一年、事故のせいで、ずっと家に閉じこもってきた、家族にも迷惑をかけてきた。その中たまたまオルゴールのことを思い出し、手に取ってみたら旅行したい気分になった、だからここに来た。何かが起きることに期待すらしていない、僕はここでゆっくり静養し、そしてまたその都会にもどっていく、ただそれだけなんだ。「帰ろう」独り言のように呟いて、車椅子を走らせた僕は、気づくと家とは反対の方向に向かっていた。自分を納得させたつもりだったが、自然と少女との思い出の地をたどっていた。木々の間を抜けると、湖畔に出た。ここでも彼女とよく遊んだことを思い出した、打ち寄せる小波が、夕日を反射してきらきらと光っていた。顔をあげると、湖の奥の山に、赤く霞んだ太陽が半分隠れていた、「もう夕方」午前中に家を出たから、優に半日はたっていることになる。時間経過も忘れて、僕はこの地を彷徨っていたのか、でも、この半日は、僕にとって夢見
心地だった、おまけにこんな綺麗な夕日を見ることができて、幸せな気持ちでいっぱいになった。波打ち際に、少女のはしゃいでいる姿が見える、後を追いかけているまだ幼い自分の姿が見える、大きな夕日に包まれた二人が、楽しげに笑っている、しばらくその光景を眺めていたら、ずっと、涙が頬を伝った、本当に幸せだった、もう思い残すことはないと思った、この先、両親が死ねば、自分の力では生活さえ出来ない、だから、生きることに未練は感じられなかった。衝動的に湖に向かって車椅子を走らせた、この時の僕はもう何も考えていない、車椅子は夕日に向かってただまっすくに進んでいく、波打ち際をしばらく越えるところで、車椅子は水と砂に足を取られ、僕は水面に投げ出された、ガボット頭から突っ込んだ、動くことのない足はただ水の中を漂い、両手だけがばたばたと水を掻く、それほどの深さとは思わないが、てんがつかない、急に死ぬことが怖くなったが、もう手遅れだった、僕の意識は体とともに水の底へと沈んでいた。
Chapter7 ふしぎ工房
はっと目覚めると、薄暗い闇の中にいった。頭がぼんやりして、はっきりとしない、一体ここはどこなのか、天国なのか地獄なのか、それすらよく分からない。しばらくして、目が慣れてくると、ここがどこか建物の中だということに気がついた。がらんとした倉庫のような空間の真ん中で、僕は車椅子に座っていた。「ここは、」確か、湖へと投げ出されたはずだ、それがなぜこんな建物の中に。もしかしたら、誰かが助けてくれて、ここへ運んでくれたのか。それにしては、服はそのままだし、濡れてもいない、なにより車椅子に座っている。夢でも見ているのだろうか。だとしたら、どれが夢、ここにいること、それとも、湖に身を投げたこと。考えをめぐらせていたら、急に人らしき気配を感じて、思わず仰け反った。「お~」目の前にいる、先は微塵も感じなかったが、確かに目の前に。それも、僕の正面に座っているではないか。体が硬直して動かない、とにかく、眼を凝らして相手を見た。すると、暗がりにぼんやりと浮かんだ人影が、口を開いた、「ご注文は。」しわがれた声だった、影の輪郭がはっきりしてくると、めがねのふちも持ち上げて、覗き込むように僕を見ている老人の顔があった。「あ、あの。」何をどう言っていいか分からずに、僕はただうろたえるばかりだった、自分はどうしてここにいるのか、助けられたとしたら、この目の前の老人にか。しかし、どう考えても、そんな雰囲気じゃない。だとしたら、これは一体。「ご注文は。」また老人は言った。人のことなどまるで気にもとめていない様子だ。僕はやっとの気持ちで口を開いた、「あの、僕はなぜここに。」老人は怪訝そうな顔で僕を見つめた、ここで僕は初めて気づいた。そういえば、先から注文という言葉を繰り返している、だとすれば、ここは何かの店なのか。そこに僕は買い物でもしに来たということなのか、でも動機も理由も見当たらない、店に入った記憶さえない、直前までは湖にいたはずなのだ、一体どうなっているんだ。ぐずぐずしていると、老人は冷たく言った、「ご注文がないなら、お帰りください。」僕は慌てた、帰れと言われても、自分がどこいるのかさえ分からない、とにかく手掛かりがほしくて、思い切って老人に尋ねてみた。「すみません、ここは何を売っているお店なんですか。」老人はようやく僕を客と認めたかのように、今度は緩やかな口調で言った。「ここでは、幸せを売っております。」幸せ、しばらく茫然とした、幸せという言葉が頭の中を駆け巡る、幸せを売っているとは何を意味するのだろう、僕にとっての幸せとは何だろう。今の僕の不幸せは足が動かないことだ、じゃ、この足が動けば、幸せになれるのか、バラ色の人生が待っているのか、なんだか自信がない、先の湖でのひと時で、十分に幸せだった気がする。そう考えているうちに、手の中からするりと滑り落ち、床にことんと落ちたものがあった、その表紙に蓋が開き、物悲しい音色が流れだした、僕はずっとオルゴールを手にしたんだ、音色はあっという間に僕の心
を切なさで満たされていた。先までの夕日の光景が蘇る、手をつないで浜を歩く幼い二人、シーンはあの夏の日へとトラックバックしていく、少女と初めて出会った瞬間、少しずつ仲良くなっていくことに喜びを感じた日々、少女の透き通るような声、無垢な仕草、天使のような笑顔、そして走り去っていく後姿、風に運ばれて、小さく小さくなっていく、僕の手はもう届かない。音色が止まった、僕はオルゴールを拾い上げると、胸にぎゅと抱きしめた、涙に濡れた顔をあげ、老人に消え入りそうな声で言った、「彼女に合わせてください。」老人の表情が和らいだ、「承知しました」そう言うと、紙と鉛筆を差し出した、紙には注文書と書かれてある、僕はためらいもなく、そこに自分の願いを書き込んだ。老人はそれを受け取ると、控えと白い封筒をよこした、表書きに請求書と書かれてある。「御代は後払いの成功報酬となっております。」「はい。」その言葉に疑問を持つわけでもなく、控えと封筒をポケットに押し込んだ、老人が車椅子を押して玄関まで送ってくれた。外に出ると、後ろに木戸が閉まった、何気に振り返ると、木戸の横に、ふしぎ工房と書かれた看板があった。戸板に筆で殴り書いたような文字が印象的だった、前方に目を移すと、湖が広がっていた。
Chapter8 悔しさ
あ、少し驚いたが、同時に安心感も広がった、僕は結局この湖にずっといたんだ、身を投げたことは悪い夢で、帰り際にふしぎ工房という珍しい店を見つけ、そこに足を踏み入れた、その間は、ボートしていたから、記憶が曖昧になっている、普段の生活にもよくあることじゃないか、全て納得できた。が、ふと気がつくと、日が暮れかかっていた、いけない、急がなくちゃ。急いで帰らなければ本当に日が暮れてしまう、そうなったら、真っ暗になった山道を自力で帰ることが出来なくなる。僕はあせて、車椅子を走らせた、来る時はのんびりだったから、舗装されてない道もそれほど気にならなかったが、急ぐとなると、とたんに走りにくい。何度も小石に躓いて、立ち往生した、走行しているうちに、日が暮れた。まずい、先までの安心感が恐怖感に変わった。祖父の家まではまだ相当の距離がある、とにかく急ぐしかない、そう思ったところで、下り坂に差し掛かったので、スピードをあげた、するといきなり大きな石に躓き、道に放り出されてしまった。「お~」僕は地面を転がった、傾斜をころがり落ちていく感覚に、思わず悲鳴をあげた。「ああ」ごずんと木の根か何かにあたる感触で、体は止まったが、全身に激痛が走った。「うんん」痛みに耐えながら、車椅子のある方向を目で追った、距離にして、約10メートルほどはある。懸命に車椅子に近づこうとしているが、やはり足が動かない、這っていこうとしても、今度は手に力が入らない、たった10メートルなのに。「畜生!」こぶしは足に叩きつけた、そんなことしても何の意味もないことは分かっていたが、怒りの刃は他になかった、叩いても叩いてもここだけは痛みを感じない、かえって現実に突きつけれらるだけだった、「畜生!!」悔しさに涙がでった、人の手を借りなければ、車椅子に頼らなければ、僕は何も出来ない存在だった。そう思うと、涙が止まらなかった、もう動く気力もなかった、仰向けになって空を見上げた、たくさんの星が瞬いていた、星を見ていたら、まだ涙が出た。このままこうしていたら、いずれ誰かが見つけてくれるだろう、それは1時間後か、2時間後か、あるいは朝になってからか、それまで一人ぼっちでこうしていなければならない、何をすることも出来ずに、孤独だと思った、いや、これまでもずっと孤独だと考えていた。それが今芯に迫っている気がする。だったら、湖で本当に死んでしまったほうがどれだけ救われたか、あの瞬間僕は本当に幸せだったんだ。暗く沈んでいたら、犬の遠声が聞こえ、急に怖くなった、この状況で野犬にでも襲われたらお仕舞いだ。そう考えたら、恐怖心が抑えなくなった。「誰か、助けてくれ。」叫んだと同時に、おい~~と呼ぶ人の声