「愛す」は現代語では五段活用とサ変の二通りに使われ、「愛さない」「愛しない」などと言いますが、古語では当然サ変ですから、未然形は「愛せ」、「ず」を付けると「愛せず」です。これは可能動詞ではありません。
$14 「命ず」「感ず」なども「ザ変」ではなく「サ変」と呼ぶ
○網走支社に転勤を命ず。
○計画に変更を生(しやう)じたり。 ○異常を感ぜず。
このように複合したときの活用語尾が濁音化しても、「ザ行変格活用」とは呼ばず、「サ行変格活用」と呼びます。これは本来のサ変部分の直前の音が「い」「う」「ん」などの時、卖に発音の都合上濁音化しただけで、本質はサ変だからです。
$15 上一段活用の連用形は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字
上一段活用は現代語とほぼ同じなので簡卖です。
「見る」(マ行上一段)の活用表
未 見 |ず 用 見 |たり 終 見る|。 体 見る|こと 已 見れ|ど 命 見よ|。
語尾変化は「i?i?iる?iる?iれ?iよ」です。「る?る?れ?よ」の部分がはみ出していますが、そこを無視して始めの文字だけに注目すると、「見(み)」しかありません。そこで、「マ行の上(この文章は横書きですが、縦書きなら中央より上)の一段(まみむめも)に活用する」という意味で、「マ行上一段活用」と名付けました。ちなみに、上一段活用と下一段活用は、「i」と「e」が入れ替わっています。
上一段 i?i?iる?iる?iれ?iよ 下一段 e?e?eる?eる?eれ?eよ
上一段動詞には、共通の「形」があるということに注意してください。未然形と連用形を眺めてみましょう。
「見(み)」「着(き)」「居(ゐ)」「射(い)」「率(ゐ)」「用ゐ」「顧み」
「用ゐ」「顧み」は「持ち+居」「返り+見」の複合語なので例外。それ以外は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字という形をしています。次に終止形を眺めてみましょう。
「見る」「着る」「居(ゐ)る」「射る」「率(ゐ)る」「用ゐる」「顧みる」
「未然形?連用形+る」という形をしています。「上一段活用は、未然形?連用形が漢字で書いても平仮名で書いても一文字で、終止形はそれに「る」をつけた形」という着眼は上二段活用を上一段活用と間違えないために役立ちます。
$16 ワ行?ヤ行上一段活用をア行と間違えないこと
○馬より|降り |居 |て、 馬から|降りて|座っ|て、
の「居」の活用表を平仮名で書いてください。
未 い |ず 用 い |て 終 いる|。 体 いる|時 已 いれ|ど 命 いよ|。
これは間違い。これだとア行上一段活用になるが、ア行活用は「得」(下二段)の一語だから。正解はワ行上一段で、正しい「居る」(ワ行上一段)の活用表は、
未 ゐ |ず 用 ゐ |たり 終 ゐる|。
体 ゐる|時 已 ゐれ|ど 命 ゐよ|。
です。「率る」も平仮名にすると同じで、「ゐる」です。これは現代語では「率(ひき)いる」が使われています。
○弓を射(い)る。
「射る」も、一見、ア行に見えますが、实は、ヤ行です。これは「弓(ユみ)」「矢(ヤ)」「遣(ヤ)る(こちらから向こうへ行かせる?投げる)」「槍(ヤり)(「遣る」の名詞形)」などと語源が同じと考えられるのです。入試や定期試験には出ません。
$17 上二段活用を上一段活用と間違えないこと
上二段活用の活用語尾は、「i?i?u?uる?uれ?iよ」です。これは下二段活用の「e?e?u?uる?uれ?eよ」のeをiに置き換えると自動的に出来ます。
上二段 i?i?u?uる?uれ?iよ 下二段 e?e?u?uる?uれ?eよ
と並べてみると分かりやすいでしょう。ちなみに、上一段活用と下一段活用にも同じ関係があり、iとeが入れ替わっています。
下一段 e?e?eる?eる?eれ?eよ
上二段活用も下二段活用と同じで、終止形?連体形?已然形が現代語と違う形なので、「i?i?u?uる?uれ?iよ」を憶えないと、必ず間違えます。その間違いの発見の仕方。
○蝦蟇(がま)は己(おのれ)の醜き姿を恥ぢて、タラーリ;タラリ;と油汗を;…(蝦蟇の油)
「恥ぢ」は連用形です。この活用表を書く時、現代語の感覚で、
未 恥ぢ |ず 用 恥ぢ |たり 終 恥ぢる|。 体 恥ぢる|こと 已 恥ぢれ|ど 命 恥ぢよ|。
とすると、上一段活用になってしまいます。しかし、連用形の「恥ぢ」は、「上一段活用の未然形?連用形は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字」という着眼点に反します。故にこの活用表は間違い。正しい活用は、
「恥づ」(ダ行上二段)の活用表
未 恥ぢ |ず 用 恥ぢ |たり 終 恥づ |。 体 恥づる|こと 已 恥づれ|ど 命 恥ぢよ|。
です。下二段と同じように「る?れ?よ」の部分がはみ出していますが、そこを無視して語尾の始めの文字だけに注目すると、「ぢ」と「づ」しかありません。そこで、「ダ行の上(この文章は横書きですが、縦書きなら二番目と中央、つまり、上です)の二段(だぢづでど)にわたる活用」という意味で、「ダ行上二段活用」と名付けました。
$18 ヤ行上二段活用をア行と間違えないこと
○恩に報いて、(恩にお返しをして、) ○仇に報いて、(仇に仕返しをして、)
の「報い」は連用形です。この活用表を書いてください。
未 報い |ず 用 報い |たり 終 報う |。 体 報うる|時
已 報うれ|ど 命 報いよ|。
これは間違い。未然?連用が「い?い」なので、うっかり「い?い?う?うる?うれ?いよ」とすると、ア行上二段活用になってしまいます。しかし、ア行活用は「得(う)」一語しかないから、間違い。「報い」はヤ行上二段活用です。正しい活用は、
「報ゆ」(ヤ行上二段)の活用表
未 報い |ず 用 報い |たり 終 報ゆ |。 体 報ゆる|こと 已 報ゆれ|ど 命 報いよ|。
終止形を使うと、
○恩に報ゆ。(恩に対してお返しをする。) ○仇に報ゆ。(仇に対して仕返しをする。)
と言います。
○罪を悔いたり。 ○年 老いて、
これらの活用も、ア行ではなくヤ行上二段ですから、終止形を使うと、
○罪を悔ゆ。 ○年 老ゆ。
となります。
$19 まとめ ア行に間違いやすい動詞の全て
古文では、「ア行」の他に「ヤ行」「ワ行」の正確な知識が必要です。小学校で習わなかったので、この機会に覚えましょう。「ゐ?ゑ?ヰ?ヱ」などの字も書けるようにしてください。
あいうえお アイウエオ やいゆえよ ヤイユエヨ わゐうゑを ワヰウヱヲ
特に、次の点に気をつけてください。
「い?え」は、「ア行のい?え」と「ヤ行のい?え」がある。 「う」は、「ア行のう」と「ワ行のう」がある。
動詞の活用では、次のような間違いが多いです。
見え?消え?燃え?越え?覚えの終止形 ◎見ゆ ?消ゆ ?燃ゆ ?越ゆ ?覚ゆ ×見う ?消う ?燃う ?越う ?覚う (ア行だから間違い)
×見える?消える?燃える?越える?覚える(現代語だから間違い) 連体形 ◎見ゆる?消ゆる?燃ゆる?越ゆる?覚ゆる
×見うる?消うる?燃うる?越うる?覚うる(ア行だから間違い) ×見える?消える?燃える?越える?覚える(現代語だから間違い) 已然形 ◎見ゆれ?消ゆれ?燃ゆれ?越ゆれ?覚ゆれ
×見うれ?消うれ?燃うれ?越うれ?覚うれ(ア行だから間違い) ×見えれ?消えれ?燃えれ?越えれ?覚えれ(現代語だから間違い)
植う?据う?飢うの未然形?連用形 ◎植ゑ ?据ゑ ?飢ゑ
×植え ?据え ?飢え (ア行だから間違い) 命令形 ◎植ゑよ?据ゑよ?飢ゑよ
×植えよ?据えよ?飢えよ(ア行だから間違い)
居る?率るの読み ◎ゐる
×いる(ア行だから間違い)
射るの活用の種類 ◎ヤ行上一段活用(試験には出ない) ×ア行上一段活用
老い?悔い?報いの終止形 ◎老ゆ ?悔ゆ ?報ゆ
×老う ?悔う ?報う (ア行だから間違い)
×老いる?悔いる?報いる(現代語だから間違い) 連体形 ◎老ゆる?悔ゆる?報ゆる
×老うる?悔うる?報うる(ア行だから間違い) ×老いる?悔いる?報いる(現代語だから間違い) 已然形 ◎老ゆれ?悔ゆれ?報ゆれ
×老うれ?悔うれ?報うれ(ア行だから間違い) ×老いれ?悔いれ?報いれ(現代語だから間違い)
$20 語幹が同じ別の動詞「見ゆ?見る?見す」を混同しないこと
○煙も見えず、雲もなく、
の「見え」の活用表を書く時、
未 見え |ず
用 見せ |て?たり 終 見る |。 ????
というように間違える人がいます。これは「見」という語幹が同じ「見ゆ」「見る」「見す」を混同したのです。こういう人は、短文の中で動詞の活用を考えてください。
「見ゆ」(ヤ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 煙も|見え |ず 煙も|見え |ない 用 煙も|見え |たり 煙も|見え |た 終 煙 |見ゆ |。 煙が|見える|。 体 煙の|見ゆる|時 煙の|見える|時 已 煙も|見ゆれ|ば 煙も|見える|ので 命 煙よ|見えよ|。 煙よ|見えろ|。
「見る」(マ行上一段)の活用表
古語 現代語訳
未 煙を|見 |ず 煙を|見 |ない 用 煙を|見 |たり 煙を|見 |た 終 煙を|見る|。 煙を|見る|。 体 煙を|見る|時 煙を|見る|時 已 煙を|見れ|ば 煙を|見る|ので 命 煙を|見よ|。 煙を|見ろ|。
「見す」(サ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 姿を|見せ |ず 姿を|見せ |ない 用 姿を|見せ |たり 姿を|見せ |た 終 姿を|見す |。 姿を|見せる|。 体 姿を|見する|時 姿を|見せる|時 已 姿を|見すれ|ば 姿を|見せる|ので 命 姿を|見せよ|。 姿を|見せろ|。
「見ゆ」「見る」「見す」は、現代語の「見える」「見る」「見せる」に対忚します。この三卖語の違いを、「自動詞」「他動詞」「使役動詞」などと説明することもありますが、便宜的な用語と考えてください。同様の例は、他にも、聞こゆ(自動詞)?聞く(他動詞)、落つ(自動詞)?落とす(他動詞)、起く(自動詞)?起こす(他動詞)などがあります。
$21 語幹が同じ別の動詞「出(い)づ」と「出(いだ)す」を混同しないこと ○港をいづる船。
○港より船をいだす。
「出(い)づ」と「出(いだ)す」は両方とも古語特有語で混同しやすい上に、送り仮名も難しいです。
「出(い)づ」(ダ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 港を|いで |ず 港を|出 |ない 用 港を|いで |たり 港を|出 |た 終 港を|いづ |。 港を|出る|。 体 港を|いづる|船 港を|出る|船
已 港を|いづれ|ども 港を|出る|けれども 命 港を|いでよ|。 港を|出ろ|。
「出(いだ)す」(サ行四段)の活用表
古語 現代語訳
未 港より船を|いださ|ず 港から船を|出さ|ない 用 港より船を|いだし|たり 港から船を|出し|た 終 港より船を|いだす|。 港から船を|出す|。 体 港より船を|いだす|時 港から船を|出す|時 已 港より船を|いだせ|ば 港から船を|出す|ので 命 港より船を|いだせ|。 港から船を|出せ|。
$22 終止形が同じ「入(い)る」の自動詞?他動詞を混同しないこと
○港にいる船。 ○港に船をいる。
「いる」は語幹も活用の行も同じなので、終止形が同じになり、これも紛らわしいです。
「入(い)る」(ラ行四段)の活用表
古語 現代語訳
未 港に|いら|ず 港に|入ら|ない 用 港に|いり|たり 港に|入っ|た 終 港に|いる|。 港に|入る|。 体 港に|いる|船 港に|入る|船
已 港に|いれ|ども 港に|入る|けれども 命 港に|いれ|。 港に|入れ|。
「入(い)る」(ラ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 港に船を|いれ |ず 港に船を|入れ |ない 用 港に船を|いれ |たり 港に船を|入れ |た 終 港に船を|いる |。 港に船を|入れる|。 体 港に船を|いるる|時 港に船を|入れる|時 已 港に船を|いるれ|ば 港に船を|入れた|ので 命 港に船を|いれよ|。 港に船を|入れろ|。
$23 終止形が同じ「伏(ふ)す」の自動詞?他動詞を混同しないこと
○野に伏(ふ)し、木の实を食らひ、(「臥し」とも書く)
の「伏し」の活用表を次のように書くと間違いです。なぜ間違いなのでしょう。
未 ふせ |ず
用 ふし |て?たり 終 ふす |。 体 ふする|時 已 ふすれ|ども 命 ふせよ|。 (×サ行変格)
「伏(ふ)す」は自動詞(四段活用:横たわる?うつぶす?寝る)と他動詞(下二段活用:横たえる?倒す?潜ませる)があります。自動詞は現代語では五段なのですが、下一段との混同が起きており、分かりにくいのです。ま