$67 疑問詞+現在推量の助動詞「らむ(らん)」
○五月雤にもの思ひをればほととぎす→
┌───────────┐
○夜深く鳴きて|いづち|行く|らむ ||(古今集?紀友則) |今 |↓
|どこへ|行く|のだろう|か
これは、目の前の闇夜の中を飛んでいくほととぎすの姿を想像している気持ちを表現しています。係助詞は使われていないが、「いづち」に含まれている疑問の意味を、文末に「か」と訳出しています。また、この「らむ」は「いづち」という疑問詞を受けているので連体形です。係り結びと似た現象です。。
$68 疑問の係助詞「や」+過去推量の助動詞「けむ(けん)」
┌───────────┐
○遊び| |せ| ん|と |や|生まれ| け ん |↓(梁塵秘抄) 遊び|を|し|よう|として| |生まれ|たのだろう|か
「けむ(けん)」は過去のことを推量する意味です。 この「けん」も係助詞の「や」の結びで連体形です。
$69 助動詞「べし」の活用の枞組み
「べし」は、終止形が「し」で終わっているので、その語源は形容詞だと言われています。だから、その活用は形容詞と同じです。
用 解決す|べく |努力する 終 解決す|べし |。 体 解決す|べき |こと 已 解決す|べけれ|ど
こんな卖純なものです。この連用形の「べく」に「あり」と助動詞を付けていろいろな言い方が出来ました。表にまとめると、
未 解決す|べく|あら|ず →解決す|べから|ず 用 解決す|べく|あり|けり→解決す|べかり|けり 終 |○ |
体 解決す|べく|ある|めり→解決す|べかる|めり 已 |○ | 命 |○ |
初めは左のように言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。これがラ変型活用です。
基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。連用形と連体形がそれぞれ二つあるのが特徴です。
助動詞「べし」の活用表
基本型 ラ変型
未 |○ | 解決す|べから|ず
用 解決す|べく |努力する 解決す|べかり|けり 終 解決す|べし |。 |○ |
体 解決す|べき |こと 解決す|べかる|めり 已 解決す|べけれ|ど |○ | 命 |○ | |○ |
$70 助動詞「べし」は、なぜ「かいすぎとめてよ」の八つの意味があるのか
助動詞「べし」は、八つほどの文法的意味があると言われます。しかし、むしろ、根本的な意味は一つで、それを現代語訳する時、文脈によって、可能?意志?推量?義務?当然?命令?適当?予定などの現代語訳が当てはまる、と理解すると分かりやすいです。その根本的な意味とは、
「当然…はずだ?…べきだ?…なければならない」と、将来の事態やあるべき事態を論理的?意志的に限定する気持ち
です。そこで例題です。
【例題70-1】
次の空欄①~⑦に入る言葉を、古語で答えてください。
①6000cc のエンジンを積んだ二人乗りのスポーツカーがある。小さい車体にそんなに大きなエンジンを積んでいるのだから、アクセル全開にすれば、すごいスピードで走ることは明らかだ。それを古語で言うと、
「いみじきスピードで( ① )。」となる。
②私の先祖は江戸時代は殿様の御典医(主治医)で、父親も医者。親戚にも医者が多い。私は今、東大医学部の学
生で成績も優秀だ。もちろん、将来医者になることを強く希望している。そこで、元旦の日記に、格調高い古文で、
「我は日本の医学界を支ふる医師と( ② )。」と書いた。
③今日は一日中風が吹き、海は波が高かった。夜中になっても風の収まる気配はない。この様子だと、明日も波は高いとしか考えられない。もし平安時代に気象庁があれば、
「明日も波は高( ③ )。」という天気予報を出すだろう。
④どこの国の国民でも、自国の法律は守らなくては。どの法律と特定しなくても、一般論としても。アメリカ人はアメリカの法律を、日本人は日本の法律を。それが法治国家というものだ。
「日本人たる者、日本の法律を( ④ )。」
⑤A君は一年生のときにクラブの副部長を務め、二年生の部長と協力してクラブを結束させた。また、实力も一年生の中では最高だ。勉強とクラブ活動もうまく両立させていて、クラブ活動の為に勉強を犠牲にするという心配も無い。人柄も皆に信頼されている。さて、次期部長には誰に就任してもらおうか。皆、
「A君こそ、次期部長に就任( ⑤ )人なれ。」と思っている。
⑥昼休みに弁当を食べていたら、急に牛乳が飲みたくなった。自分で買いに行くのは面倒なので、日頃勉強を教えたり、金を貸してやったり、乱暴な奴から守ってやっている友人を使いぱしりにしようと思った。そこで、その友人に、
「汝、牛乳を買いに( ⑥ )。」と言った。
⑦昔は冷房がなかった。冬は家の中を暖める手段はいくらもあるが、夏は風の通らない家は住みにくい。だから、徒然草にも、
「家の作りやうは、夏をむねと( ⑦ )。」と書いてある。
⑧十二月二十一日、…住む館から出て、船に乗ることになっている所へ移動する。(土佐日記)
「…、船に乗る( ⑧ )所へ渡る。」
【例題70-1】の答
①現代なら「すごいスピードで走ることが出来る?走行が可能だ?走れる」などの言い方があるが、平安時代は、そんな言葉はなかった。そこで、古語で言うと、「べし」を使って、
「いみじきスピードで|走る|べし |。」となる。 |当然 |
|走る|はずだ|。
②現代なら「…医師になるつもり(名詞)です?決意(名詞)です?希望(名詞)を持っ(動詞)ています?…」その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代の人は、名詞や動詞より、使い慣れた助動詞「べし」を使って、
「我は日本の医学界を|支ふる|医師と|なる|べし |。」と書いた。 |支える|医師に| |当然 | |なる|はずだ|。
③現代なら「明日も波は高いことが予想される?高いに違いない?高い確率は90パーセントです?…」その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代の人は、助動詞を使って簡潔に表現するのが好きだったので、
「明日も波は|高かる|べし |。」という天気予報を出した。 |当然 |
|高い |はずだ|。
④説明は略。
「日本人たる者、日本の法律を|守る|べし |。」 |当然 |
|守る|はずだ|。
⑤現代なら「A君こそ、次期部長に最適だ?是非なって欲しい?ベストな人材だ?…」。その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代は、「最適?是非?ベスト」などという言葉はなかった。(本当になかったかどうか知らないが、そう考えると分かりやすい。)そこで、使い慣れた「べし」を使って、
「A君こそ、次期部長に|就任す |べき |人|なれ 。」と言った。 |当然 |
|就任する|はずの|人|である。
⑥現代なら「…牛乳を買ってこい?買ってこないと、ひどい目にあうぞ?おれの世話になっている恩返しで、買ってくるのが人の道だよ?…」その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代の人は、「べし」を使って、
「汝、牛乳を |買いに行く|べし |。」と言った。 |当然 |
|買いに行く|べきだ|。
⑦これも説明は略。徒然草には、
「家の作りやうは、|夏を|むね|と|す |べし |。」と書いてある。 |当然 |
|夏を|主眼|と|する|べきだ|。
⑧これも説明は略。
「…、|船に乗る|べき |所へ|渡る 。」 …、| |当然 |
|船に乗る|はずの|所へ|移動する。
【例題70-2】
【例題70-1】の答の①~⑦の「べし」は、全部原義どおり「当然」に訳しましたが、豊富な語彙を持っている現代人の立場で、「当然」より、もっと私達の感性にぴったりした訳し方はないでしょうか。一つ一つ答えてください。
【例題70-2】の答
①「いみじきスピードで走る| べし |。」
走る|ことができる(だろう)。 ?「可能?可能推量」
②「我は日本の医学界を|支ふる|医師となる| べ し |。」
|支える|医師になる|決意だ?つもりだ|。 ?「強い意志」
③「明日も波は高かる|べし |。」
高い |に違いない|。 ?「確信的推量」
④「日本人たる者、日本の法律を守る| べし |。」
守る|義務がある|。 ?「義務」
⑤「A君こそ、次期部長に|就任す |べき |人|なれ 。」 |当然 |
|就任する|はずの|人|である。 ?「当然」
⑥「汝、牛乳を買いに|行く|べし|。」
買いに|行け|!!|。 ?「命令」
⑦「家の作りやうは、夏を|むね |とす |べし |。」
夏を|主目的|とする|とよい|。 ?「適当」
⑧「…、|船に乗る|べき |所へ|渡る 。」
…、|船に乗る|予定の|所へ|移動する。 ?「予定」
「べし」は、もともとの一つの意味が、語彙の豊富な現代語に訳すと、さまざまに訳し分けられます。一人称の動作に付くと意志、二人称は命令、三人称は確信的推量に訳すとぴったりすることが多い。また、人称に関係なく、可能推量?義務?当然?適当に訳す場合があります。頭文字をとって、「かいすぎとめてよ」と暗記するとよいでしょう。ただ、「可能」は「可能推量」、「推量」は「確信的推量」に訳せる場合が多いということも覚えておいてください。
「べし」に多くの訳が当てはまるのは、英語の shall, should, must と似ていて、「む」が will に似ているのと似ています。興味のある人は自分で考えてください。
$71 打消の助動詞「ず」の活用の枞組み
「ず」の活用を勉強するコツは、形容詞と同じように、基本型活用とラ変型活用に分けて理解することです。「花は咲かず。」という例文で説明すると、基本型活用は、
用 花は咲か|ず|、鳥も|鳴か|ず、… 終 花は咲か|ず|。 体 咲か|ぬ|花 已 花は咲か|ね|ど
こんな卖純なものです。分かりやすい例文を探すと、
○武士は 食は|ね |ど、 高 楊枝 。
武士は飯を食わ|なく|ても、悠然と楊枝を使う。
○なじかは|知ら|ね | ど|心| |詫びて (ローレライ) なぜかは|知ら|ない|けれど|心|が|悲しくなって
しかし、もっと複雑な表現、例えば、「花は咲かない」に更に別の意味を付け加える表現をどうするか。
未 花は|咲か|ず |あら| む →咲か|ざら | む 咲か|なく|ある|だろう 咲か|ない |だろう
用 花は|咲か|ず |あり|けり →咲か|ざり |けり 咲か|なく|あっ|た 咲か|なかっ|た
終 ○
体 花は|咲か|ず |ある|べし →咲か|ざる |べし
咲か|なく|ある|に違いない 咲か|ない |に違いない
已 花は|咲か|ず |あれ| ど →咲か|ざれ | ど 咲か|なく|ある|けれど 咲か|ない |けれど
命 花よ|咲か|ず |あれ|。 →咲か|ざれ |。 咲か|なく|あれ|。 咲く|な |。
初めは左のように「ず」と「あり」を組み合わせて言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。これがラ変型活用です。
基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。暗記しなくても、ラ変型の語源を考えれば理解できます。未然形の(ず)については、後述します。
打消の助動詞「ず」の活用表
基本型 ラ変型
未 花 |咲か(ず)ば 花は|咲か|ざら|む。 用 花は|咲か|ず|、 花は|咲か|ざり|けり。 終 花は|咲か|ず|。 |○ |
体 |咲か|ぬ|花 花は|咲か|ざる|べし。 已 花は|咲か|ね|ど 花は|咲か|ざれ|ど、 命 |○| 花よ|咲か|ざれ| 。
①動かざること山の如し。(風林火山) ②働かざるもの食ふべからず。
これらも、語源を知っていれば次のように理解できます。
①古語 動か| ざ る|こと| |山|の|如し 。 語源 動か| ず |ある|こと| 動か|ないで|いる|こと|
動か| な い |こと|は|山|の|ようだ。
②古語 働か| ざ る|もの| |食ふ| べ か ら|ず。 語源 働か| ず |ある|もの| |食ふ| べく |あら|ず。 働か|ないで|いる|もの|は|食う|べきでは| な い。 働か|ない |もの|は|食う|べきでは| な い。
$72 漢文の「不」の書き下し
次の漢文の書き下し文は、「不」がわざと漢字のままになっています。これを平仮名にして正しい書き下し文にし、訳して下さい。
①子(し)我を以つて信なら不と為さば、我子の為に先行せん。(狐借虎威?戦国策) ②百獣の我を見て、敢へて走(に)げ不らんや。(狐借虎威?戦国策) ③虎獣の己を畏れて走(に)ぐるを知ら不るなり。(狐借虎威?戦国策)
④桃李(とうり)言(ものいは)不れども、下自づから蹊(こみち)を成す。(史記) ⑤一日作(な)さ不れば、一日食らは不。(百丈禅師)
⑥今日雤ふら不、明日雤ふら不んば、即ち死蚌(しばう)有らん。(漁夫之利?戦国策) ⑦日月星宿、当(まさ)に墜(お)つべから不る邪(か)。(列子?杞憂) 答
①「信なら不」は、次の格助詞「と」で引用されている普通終止の文なので、「不」は終止形。だから「ず」。ちなみに「普通終止の文」とは、係り結びなどのない文のことです。
○ 子 我 を以つて|信 なら|ず |と|為さ| ば|、我 子 の為に先 行せ ん。
あなたが私のことを |信用でき|ない|と|思う|ならば|、私はあなたの為に先に行きましょう。
②「不らん」の「ん」は推量「む」の撥音便形で、その接続は未然形。だから「不ら」は「ざら」
○百獣の我を見て、敢へて|走(に)げ|ざら| ん |や。
獣達が私を見て、敢えて|逃 げ|ない|だろう|か、いや、逃げるだろう。
③「不るなり」の「なり」は断定の助動詞なので、接続は連体形。だから「不る」は「ざる」
○虎 獣の己 を畏れて走(に)ぐる を|知ら|ざる|なり。 虎は獣が自分を恐れて 逃げた のを|知ら|ない|のだ。
④「不れども」の「ども」の接続は已然形。だから「不れ」は「ざれ」
○桃李(とうり) 言(ものいは)|ざれ| ども、 下 自づから蹊(こみち)を成す 。 桃や李(すもも)は ものを言わ |ない|けれども、その下には自然に 小道 が出来る。
⑤「不れば」の「ば」の接続は未然形または已然形。だから「不れ」は已然形「ざれ」にしか読めない。文末の「不」はもちろん終止形。
○一日|作(な)さ|ざれ |ば、一日 食らは |ず 。 一日|働 か |なけれ|ば、一日飯を食う べきでは|ない。
⑥「不、」は連用形「ず」の中止法、「不んば」は連用形「ず」の撥音便形「ずん」+接続助詞「ば」。
○今日雤 ふら|ず、明日 |雤 |ふら| ずん | ば |、即ち死蚌(しばう) 有ら ん 。 今日雤が降ら|ず、明日も| |もし |
|雤が|降ら|なかった|ならば|、すぐ死んだどぶ貝が出来るだろう。
⑦「邪(か)」は疑問の終助詞で、連体形に接続する。だから、「不る」は「ざる」
○日 月 星宿 、当(まさ)に 墜(お)つ |べから|ざる|か。 太陽と月と星座は、きっと 地上に落ちることは|有り得|ない|か。
古文の「ず」の活用をきちんと覚えていれば、送り仮名に「ら?り?る?れ」が付く「不ら?不り?不る?不れ」